ペットの健康を食から支える ~日本ペットフードのペットヘルスケア~

2024年10月01日

  • Interview

ペット産業で活躍する経営者や専門家をゲストに招き、日本の動物医療やペット産業の現状と将来について深掘りするセミナー形式のインタビューシリーズ。
国内では犬の飼育頭数が減少し、市場が厳しさを増していくことが予想されます。このような状況下で、私たちが取るべき市場判断と今後の施策とは何でしょうか。現状分析と市場展望を中心に、お話を伺っていきたいと思います。

生田目
今回は、日本ペットフード株式会社の代表取締役を務める片山俊次社長にお話を伺います。
片山社長は、東京ビッグサイトで開催されたインターペット2024のビジネスセミナーで、国内のペット市場全体の動向と展望についてご講演されました。
長年ペットフードの開発に携わってこられたご経験から見たペットフード業界の変化と、今後必要とされるビジネスの形態についてぜひお伺いしたいと思います。
本日はどうぞよろしくお願いいたします。

片山
どうぞよろしくお願いいたします。

生田目
まずは日本ペットフード株式会社について簡単にご紹介させていただきます。
日本ペットフードさんは1960年に日本で初めての国産犬用ペットフードを開発発売されました。
それがあの有名なビタワンです。
犬の顔が描かれた黄色い背景のロゴは、皆さん一度は見たことがあるのではないでしょうか。
そこから業界の火付け役として牽引し、現在では国内大手のフードメーカーとなっています。
犬だけでなく猫、小動物のフードも製造されています。
自社研究所での検証等を通してペットの栄養を第一に考えたフードづくりに注力されていますね。
その点にとても感銘を受けて、QIXと日本ペットフードさんとの共創ブランド「ベッツリコ」シリーズを開発しました。
また、自社の飼い主相談センターでペットに関する正しい知識を周知することにも取り組まれています。
日本ペットフードさんは健全なペット業界を守り、尊敬されるトップ企業の一つです。

片山
ご紹介いただきありがとうございます。
我々の努力をわかりやすくご説明いただけて嬉しいです。

生田目
簡単にご紹介させていただきましたが、御社の理念や片山社長の想いについて詳しく伺えますでしょうか。



片山
弊社は60年以上、ペットと家族の幸せを守るためにフードを開発し続けてきました。
その中で、ビタワン、コンボ、ビューティープロという代表的なブランドを生み出しています。
特にビタワンは国内のペットの食生活を大きく変えたと自負しております。
私が社長に就任した頃から、今まで以上にペットが家族として扱われるようになる、時代の変革期でした。
私自身も生粋の犬猫好きです。
私と同様に、飼い主様もペットがいつまでも元気でいて欲しいはずです。
当社の理念は、「私たちはこころのふれあいを大切にし、ペットフードを通して家族とペットの生活に憩いと潤いを提供します。」としています。
また、フードを通して繋がるすべての動物と人が幸せであってほしいと考えているので、
ペットと家族、そして一緒に働く社員の幸せの確保と社会貢献を会社の使命として掲げることにしました。
我々は、ペットの健康を守り、周囲を幸せにするために日々尽力しています。

生田目
ありがとうございます。
その使命は非常に大切なことだと私も思います。
ペット業界では、犬猫が好きすぎるあまり、働く人が二の次になることが多いと感じます。
片山社長のおっしゃる通り、ペットに幸せを与える側の社員が幸せでないと、発想もサービスも良いものにならないと思います。
ところで、ビタワンで食生活に触れられましたが、ペットフードの歴史についてお教えいただけますか。

片山
はい、昔の日本では、犬の食事として残飯が与えられていた時代がありました。
1960年にビタワンが発売されてから、犬の食事が徐々に残飯からペットフードに変わっていきました。
また、1990年代になると、フードは餌ではなく「愛犬の食事」という認識に変わっていきました。
1993年にはAAFCO(米国飼料検査官協会)から推奨栄養成分が公表され、ライフステージに応じた栄養基準が設定されました。
さらに、2000年代には機能性食品フードができ、2010年代になるとヘルスケア特化の商品が登場しました。
そして、コロナ拡大をきっかけにプレミアムかつD2Cフードの人気が上昇して現在に至ります。



生田目
確かに昔は外飼い・木でできた犬小屋・残飯の食事といった家畜に近い飼われ方をしていましたね。AAFCOの栄養基準によって業界も飼い主もペットの食に対する考え方が大きく変わったのですね。
今はより高品質なフードが好まれるなど、食意識がかなり高くなっているように感じます。
ペットフードの中には、大きく分けて犬用と猫用、その他の動物用の3つがあると思いますが、犬用と猫用で市場に差はあるのでしょうか。

片山
そうですね、フードの出荷量から見ると犬で約40%、猫で55%程度の流通があります。
この比率は国内の飼育頭数の犬猫比率に似ていますね。
一方で、飼い主1人当たりのフード年間購入金額では犬で約45,000円、猫で約50,000円となっています。
金額で見ると、犬の飼い主の方がよりプレミアム志向になっていることがわかります。
また、市場調査の報告ではドッグフードよりキャットフードの市場がやや大きいと言われています。
猫は好き嫌いがはっきりしている動物ですので、栄養面だけでなく嗜好性も加味してフードを選ぶ飼い主が増えています。それに追従するように、キャットフードの新商品もどんどん投入されています。
さらに、ドライフードの場合は、トッピングを加えたグルメタイプの商品が多くなってきています。
つまり、ドッグフードは全体的なプレミアム化によって市場が拡大していて、
キャットフードは成長領域のプレミアムフードとグルメタイプの商品の需要の高まりによって市場が拡大していると考えられます。



生田目
フード市場は全体的に拡大傾向ですが、キャットフード市場に関してはまだまだ伸びしろがありそうですね。
次に、よりマクロなお話をお伺いしたいのですが、今のペットフード市場はどのような構図になっているのでしょうか。

片山
ご存知の通り、現在ペット市場は伸びていて、全体で1.71.6兆円の規模にまで成長しています。
そのうち、ペットフード市場の規模は4,800億円を超えて、いまだに年々増加しています。
つまり、ペットフードはペット市場全体の成長を牽引していると考えられます。
外資系ではマースグループ、国内系ではユニ・チャームが最大手企業です。
ちなみに、日本ペットフードもトップ10に入っています。
これら上位の企業でフード市場の約80%を占めていると言われています。

生田目
大手企業のフードだけで8割も占めているのですね。
そうすると、今から参入しようとしている企業にとっては非常に入りにくいと感じます。
実際のところ、どのくらい新規参入する会社があるのでしょうか。
さらに、残りの2割の企業はどのような戦略を取っているのか気になります。

片山
ペットフード市場では大手企業の物理的な販売チャネルが強固です。
そのため、新規参入企業にとっては流通経路や販売店舗の獲得が難しく、参入障壁が高というのが一般的な認識でした。
しかし、近年ではネットショップの普及によって販路の確保が比較的簡単になりました。
そのため、スタートアップ企業が続々とペットフード業界に参入しています。
小規模企業がメーカーに製造を委託する形態のスモールビジネスを展開する事例が増えています。
大手と比較して、ブランド力には大きな差がありますが、
それでも、ネットショップであれば広報戦略のやり方の工夫で商品の購入につながるかもしれません。
このように、販売チャネルの多様化によって新たな企業も出てくるようになってきています。



生田目
ありがとうございます。
ある程度歴史がある会社がほとんどかと思っていましたが、新規の会社も結構多いのですね。
確かに、製造委託で簡単に商品を作れるようになりましたし、ネットショップで簡単に販路は作れますね。
ただ、大手企業というよりは新しい会社同士の競争が激化しているように感じますが、いかがでしょうか。

片山
おっしゃる通りです。
ネットショップは言わばペットフード市場の成長に関連している新しい領域です。
そのため、大手企業はすでに持っているブランド力で一定の売上を立てています。
そのうえで、ペットフードの商品自体に強みを持つ会社が選ばれます。
そして、新規の製造企業同士が残りの枠を奪い合うといった構図になっていると想像しています。
確実に言えることは、ブランド力を除けば、ペットフードは”質”で選ばれるようになっている、ということです。

生田目
そうですね。
ペットフードの高単価需要は、飼い主がより良いものを求める意識の高まりが背景にありそうです。
この場合の懸念点としては、良いように謳って低品質高価格の商品が広まる危険性かと思います。
実際のところ、片山社長のご存知の範囲ではこのような売り方は存在するでしょうか。

片山
意図的にやっているかどうかはわかりませんが、似たような現象は起きていると思います。
ここからは、私が理事を務めているペットフード協会としての観点からもお話しますね。
ペットフード安全法では、原材料について100%記載することを求めていますが、原材料の表示順については決められていません。ペットフードの表示に関する公正競争規約では、原材料を使用量の多い順に記載するよう定めています。新規参入の会社はペットフード公正取引協議会に加入していないところも多く、ペットフードの表示に関する公正競争規約に従っていない商品も見受けられます。
商品の特徴的な成分を前面に出すことで、飼い主のヘルスケア指向に対して訴えかけるものが多くみられますが、ペットフードでは効能・効果を訴求することはできません。
また、健康を意識して有効成分を目的にプレミアムフードを購入しているにも関わらず、成分が実態と異なることで期待された効果を得られない場合があることも懸念されます。

生田目
残念ながら、そのような商品も出回っているのですね。
飼い主が成分や原材料をよく見るようになったからこそ起こる新たな問題とも言えますね。
ただ、獣医師や栄養学の知識がある人からすれば、非常に厄介ですね。



片山
おっしゃる通りです。
専門家としては、飼い主様の相談を受けてペットフードを勧めることが多々あると思います。
特に、獣医師にとっては病気のペットの栄養管理に関わる問題ですから、尚更よくありません。
最近、原材料の最初に肉類が記載されているフードが質のいいフード、と言われることがあるのですが、原材料を多い順に記載することは公正競争規約上のルールで、ペットフード安全法では原材料の表示順について定めていません。また、肉を乾燥した状態で使用する場合と生で使用する場合では、水分の有無によって同じ蛋白量でも大きく重量が変わりますので、そのことだけでフードの栄養価を測ることはできません。飼い主であれば、だれでも栄養バランスがとれた食事をペットに与えたいと思います。
食事管理は健康の維持や病気の改善に最も大事なものですから、
ペットフードを製造・販売している側がペットの健康を第一に考えなければならないと思います。

生田目
栄養学の知識が浅く、売上だけにこだわるとペットの健康を害することが起きるかもしれませんね。
フードを作る際には最低限の勉強はしておいていただきたいところです
それでは最後に、ペットフード協会の副会長として、ペットフードビジネスを行ううえで心がけてもらいたいことはありますでしょうか。

片山
先ほどもお話ししましたが、原材料表示において公正競争規約は重量に沿った表示順での記載を求めています。
しかし、順序規制だけでは原材料をより詳細に知りたいという要望に対応できません。
そこで、ペットフード公正取引協議会では順序基準と、より詳細な2つの表示方法を推奨しています。
1つは複合原材料に含まれる原材料を分解して記載することです。
例えば、カニカマを使っている場合、原材料はカニカマが使用されていることを読み取れるように記載することを求めていますが、魚やカニエキスなど、カニカマもその原材料名に分解して記載することを例外として認めています。
複合原材料名だけを記載してしまうと、アレルギーの原因食材が特定できない場合などがあるからです。
もう1つは原材料に含まれる添加物についても種類を記載することです。
ペットフード安全法では、原材料中に含まれる添加物については記載義務がありませんが、
飼い主様の中には、アレルギーの原因になるものや添加物を非常に注意深く観察される人もいます。
詳細に情報提供することが飼い主様の安心につながり、ビジネスとしてのメリットも得られると思います。
ペットフードをつくる会社は顧客を第一に考えたビジネスを心がけていただきたいと思っています。
正すところは正して、健全な差別化によって競争が活性化する業界を一緒に目指していきましょう!

生田目
ありがとうございます。
これからもペットと飼い主、ペット業界で働く人々の幸せのために、一緒に業界を盛り上げていきましょう。
本日はありがとうございました。



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【プロフィール】

生田目 康道(なまため やすみち)
株式会社QIX 代表取締役 社長
株式会社JPR 代表取締役 社長(プリモ動物病院)
株式会社EDUWARD Press 代表取締役 会長
株式会社QAL startups 代表取締役共同CEO
一般社団法人日本ペットサロン協会 専務理事


片山 俊次(かたやま としつぐ)
日本ペットフード株式会社 代表取締役社長執行役員
一般社団法人ペットフード協会 副会長
一般社団法人DIY・ホームセンター協会 理事